実効税率と法人税負担の国際比較

2011/02/04 金曜日

会社が儲かると、その「儲け」には税金が課される。横浜市にある会社であれば、法人税、法人県民税、法人市民税の3つの税金が課されている。このうち法人県民税は、さらに法人税割、事業税、地方法人特別税の3つに分けられる。「均等割」というものもあるが、これは「儲け」に係らず、会社の規模に応じて一定額が課される税金なので、今回の議論の対象にはしない。

上記の各税金にはそれぞれ税率が定められているが、単純にそれらを足し合わせても意味はない。なぜなら、税率に掛け合わす対象(課税標準)が異なるからだ。法人税と事業税は「所得」が、法人税割と法人市民税は「法人税」が、そして地方法人特別税は「事業税」が課税標準となっている。また、各税金は所得(=益金-損金)を計算する際の損金にすることはできないが、事業税だけは損金扱いできる。

これらを考慮して、会社の所得に対して実質的に、どれ位の税金が課されるのかを示すものが「実効税率」である。所得100に対し、実効税率が40%であれば、実質の税負担額は40と計算される。(ただし中小法人の場合には、所得金額に応じて段階的に税率が設定されているので、税負担額を計算するためには積み上げ計算を行う必要がある。)

平成23年税制改正では、実効税率を5%引き下げるために、法人税率が30%から25.5%に引き下げられることになった。
実効税率推移表

税率を引き下げることにより企業の税負担を減らし、よって企業の海外流出を防ぐというのが本改正の目的だが、日本での改正を受けてアメリカでも法人税率の引き下げが議論されているようである。税率の引き下げは、わかりやすくてアピール性が高いので、今後も世界的な傾向として進んでいくと思われる。そしてこのまま行けば、いずれ法人税率は全世界的にゼロに近づいて行く可能性もあるだろう。

しかし、税率がゼロになってしまえばともかく、実効税率が低い方が税負担が軽いと単純に考えることはできない。税額は、実効税率と所得を掛け合わせたものなので、所得の算定も当然のことながら税負担に影響を与える。

今回の改正では、税率引き下げの一方で、所得の算定に関しては(特に大企業にとって)納税者不利となるような改正がいくつか行われている。欠損金等の繰越控除制度、貸倒引当金制度、定率法償却率の改定などがそれである。本来、企業の減税効果はこれらを加味して考えなければならない。

これは各国の税負担額の比較を行うような場合でも同じだ。単純に実効税率の高低を比べてただけでは不十分と言える。各国における所得の算定の仕方は一様ではないからだ。そして、それらを比較することは税率の比較とは違って非常に難しい。

では、どのような指標が税負担の国際比較上、有用であるのか。これについては、国会図書館の立法調査資料レファレンス「企業の法人税等負担の計測手法と国際比較」が詳しい。

本資料では、実効税率による国際比較の限界を指摘したうえで、以下のような指標を紹介している。
 ・GDPに占める法人税収の比率
 ・税務統計情の課税所得に占める法人税等納税額の比率
 ・GDP統計上の企業所得に占める法人税等の額の比率
 ・モデル企業に各国の法人税制を適用する手法
 ・個別企業の財務データに基づく計測手法

これら各指標の解説はそれぞれに興味深く、さらに本資料ではその特徴やメリット・デメリットを一覧表にしているので読者にはとても便利だ。そして最後に、以下のような文章でまとめている。

「…その結果、どちらかといえば、日本の法人税率は諸外国と比べて高いとするもののほうが多いように見受けられるが、そうではないとする見方も根強い。いずれの手法にもメリット、デメリットがあり、企業の公的負担を完全に正確に計測することは、個別企業ごとには可能でも、一国全体について行うことは困難である。…少なくとも、実効税率だけをみて比較するのではなく、課税ベースの広狭や税額控除等の優遇措置をどうするのかといったことも併せて検討しなければならない。…国際比較における日本の位置づけをにらみつつも、最終的には、外資誘致や国内産業の空洞化阻止のために税率を引き下げるのか、あるいは、厳しい財政事情に鑑みて税率を維持するのかといった、戦略的・政治的判断が求められているといえよう。」

(望月)