教育資金一括贈与非課税制度と信託

2013/02/12 火曜日

●教育資金一括贈与非課税制度の新設

今回の税制改正法案の目玉の一つに、教育資金一括贈与非課税制度がある。

受贈者(30歳未満の者に限る。)の教育資金に充てるためにその直系尊属が金銭等を拠出し、信託会社(信託銀行を含む。)、銀行等及び金融商品取引業者に信託等をした場合には、信託受益権の価額又は拠出された金銭等の額のうち受贈者1人につき 1,500万円(学校等以外の者に支払われる金銭については、500万円を限度とする。)までの金額に相当する部分の価額については、平成25年4月1日 から平成27年12月31日までの間に拠出されるものに限り、贈与税を課さないこととする。

先日たまたま観た池上さんの番組でも、この話題が早くも取り上げられていて、「孫への贈与は1,500万円まで非課税!」というようなニュアンスで解説されていた。しかし、上記にあるように単なる贈与ではダメで、その目的が教育資金であることや受贈者の年齢が30歳未満であることなど、一定の要件や手続きが必要とされる。受贈者については孫に限らず、子やひ孫などであっても構わない。

「教育費の贈与」については、もともと非課税規定が存在し、扶養義務者からの「教育費として必要な都度直接これらに充てるための」贈与であれば従来より課税はない。今回の新制度のポイントは、将来の教育資金を事前一括して贈与した場合でも、一定の要件を満たせば非課税になるという点にある。

新制度の趣旨としては、高齢者世代から若年世代への資金移転を促すことで経済の活性化を図ることにあると言われている。が、贈与された資金は実際に教育費の支払いがあるまでは口座にプールされて動かせないので、その意味では経済活性化効果は限定的と言える。

それとも、「孫への贈与」を強調することで、教育費というものは親ではなく祖父母が負担するものという社会の空気を作り、その割合を高めることで現役世代(親)の負担を減らし、もって経済活性化に繋げるということなのだろうか?(ちなみに、世の中にはこんな暴論(→参照)を吐く者もいる。)

なお、教育費の具体的な範囲等については現時点ではまだ明らかになっていない。

 

●信託の活用

教育資金一括贈与非課税制度は「信託」の利用を前提としている。(法案では「信託」でなくても良しとすることにしたらしい(3/5追記)→「資産税の税理士ノート」)

ここで信託とは

委託者が信託行為によって、受託者に対して金銭や土地などの財産を移転し、受託者は委託者が設定した信託目的に従って受益者のためにその財産(信託財産)の管理・処分などをする制度

をいう。今回の新制度に当てはめると、

  • 委託者(=贈与者) → (祖父母などの)直系尊属
  • 受託者 → 信託会社等
  • 受益者(=受贈者) → (孫などの)直系卑属

となり、贈与された資金は信託会社等によって管理されることになる。

信託は、平成19年施行の改正信託法により利用しやすくなったと言われているが、投資信託などを別にすると、まだまだ一般には馴染みの薄いものといえる。しかし、その潜在的な利用価値は高く、例えば個人信託・家族信託研究所のサイトでは、下記のケースをはじめとするいくつかの信託の利用例が紹介されている。

また、中小企業庁では「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会」を設け、事業承継における信託スキームの研究結果を「中間整理」としてまとめ公表している。

教育資金一括贈与非課税制度は、一般の人にとってこれまで縁遠かった信託を身近なものにする「きっかけ」になる可能性もある。それ伴い、今後我々税理士も信託に関してより広く深い知識が必要とされることになるだろう。

この日本で一気に「信託の扉」が開かれることになるのか、期待したいところである。

(フレッシュ、フレッシュ、フレーッシュ♪)

 

(望月)