当初申告要件について
2017/09/25 月曜日●意義
「当初申告要件」とは税額軽減措置の適用にあたり、当初の確定申告において納税者がその意思表示を行うことを要件に適用を認めることをいう。
ここで「当初」とは「最初」という意味であって、後述するように「期限内」とは意味合いが異なる。また「意思表示」は確定申告書へ適用額の記載することや一定の書類を添付することをいう。
当初申告要件の課される制度については、修正申告や更正の請求ではじめてその適用を受けようとしても受けることはできず、また、当初の申告で適用額の記載がある場合でも修正申告等でその額を増額する際には「適用額の制限」規定がある。
●平成23年12月税制改正
当初申告要件及び適用額の制限(適用額の増額の可否)については、平成23年12月税制改正で以下のような改正が行われている。
当初申告要件は租税特別措置法以外では廃止され、適用額の制限に関しては租税特別措置法でも見直しが行われている。
(当初申告要件が存続した措置の例)
- 小規模宅地等の特例(相続税関係)
- 相続時精算課税制度(相続税関係)
- 居住用財産の譲渡の3,000万円の特別控除(所得税関係)
- 住宅借入金等特別控除(所得税関係)
- 研究開発税制(法人税関係、所得税関係)
- 所得拡大税制(法人税関係、所得税関係)
●租税特別措置法における適用額の制限
平成23年12月改正の中では、租税特別措置法における適用額の制限の見直しが少しわかりづらい。
従来は、修正申告等(*)の際に当初の確定申告に記載した適用額を増額させることは一切できなかったが、改正後は一定の場合にそれが認められることになった。
例えば、研究開発税制(総額型)では、試験研究費総額から算定される税額控除限度額と法人税額から算定される当期税額基準額のいずれか小さい金額が税額控除の適用額となるが、平成23年改正後は、修正申告等において法人税額が増えることによって当期税額基準額が増加し、その結果、適用額が増額する場合にはそれを認めることになった。
試験研究費総額(「特定事項」と呼ぶ)の増額による税額控除限度額及びその結果としての適用額の増額は従前同様認められていない。
(修正申告で特定事項が減額する場合には適用額は当然減額されるものと思われる。)
(*)平成29年度改正では修正申告や更正の請求のほかに、更正処分によっても適用額の増額が可能になった。
●所得拡大税制の適用
現在、法人税の申告業務において、もっとも手間のかかる税額権限措置はおそらく所得拡大税制だろう。特に社員数の多い法人の場合にはその適用額の計算にかなりの時間を要する。
赤字申告で法人税が発生しないような期では、法人税額から計算される当期税額基準額がゼロになるため、雇用者給与等支給増加額などの複雑な計算をするまでなく税額控除がゼロであることは明らかである。
しかし、実務では税務調査等で所得及び法人税額が増える場合を想定し、とりあえず別表六(十九)を提出して当初申告要件を満たしておくことがある。
その際、手間がかかるからと別表六(十九)の計算をおざなりにしてしまうと、いざという時に適用額の制限にひっかかり税額控除を十分に受けられない可能性が出てくる。
やっかいではあるが、当初申告に載せるのであれば、例え赤字申告であっても正確に適用額の計算をしなければならない。(当たり前か)
●期限内申告要件との関係
税額軽減措置等の適用にあたり、当初申告要件が“当初の申告”を要件としているのに対し、期限内申告要件は“期限内での申告”を要件としている。
“当初の申告”であっても“期限後の申告”であることはあるし、“期限内の申告”であっても“当初の申告”でない場合もあり、両者は必ずしも一致はしない。
期限後申告の場合には無申告加算税などの税額加重措置の適用や期限後申告が2年続く場合には青色申告の承認取消しが行われる。
(期限内申告要件のある措置の例)
- 青色申告65万円控除(所得税関係)
- 相続時精算課税制度(相続税関係)
●損金経理要件との関係
損金経理要件とは法人税固有の概念で、法人の所得計算上、確定決算での費用経理処理を損金算入の要件とすることをいう。
当初申告要件が当初申告時に税額軽減措置適用の意思表示を要求するのに対し、損金経理要件は確定決算時に損金算入の意思表示を要求している。
それらの意思表示がない場合、修正申告等によって損金算入や税額控除の適用を行うことはできない。
(損金経理要件のある経費の例)
- 減価償却費
- 未払使用人賞与
- 貸倒引当金
- 貸倒損失
- 交換等の圧縮記帳
(望月)