租税における制裁、罰則
2012/08/03 金曜日●行政上の制裁と刑事罰
申告した税額が少なかったり、申告自体を行わなかったり、納期限までに納付しなかったりすると、本税に加え加算税(過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税)が課される。そこに仮装、隠ぺいがある(脱税)と認められると、それらに代えて重加算税が課されることになるが、これらはあくまで行政上の制裁(処分)であり、刑事罰ではない。
脱税の中でも、大口、悪質であると疑われるような場合などには告発を前提とした調査が行われ、告発、起訴されて有罪となるとき、はじめて刑事罰が課されることになる。
●根拠条文
加算税に関しては、国税通則法 第6章 附帯税 第2節 加算税 65条~68条に規定が集約されている。
一方、刑事罰については「罰則」として各税法ごとに条文が設けられて、大抵一番最後の編、章に収められている。
なお、税法以外の法律では会社法(960条~975条)や金融商品取引法(197条~209条)などに罰則規定があるが、民法や刑法などには罰則規定はない。
法人税法における罰則規定は下記のような内容になっている。
- 159条 脱税
- 160条 申告書の不提出
- 161条 代表者等の自署押印の規定違反
- 162条 虚偽記載・答弁
- 163条 行為者及び法人等への科刑
脱税犯(159条)以外のいわゆる秩序犯(160条~162条)に対しても刑事罰の適用がある。
●制裁、罰則の内容
租税における行政上の制裁は、通告処分を別にすると、加算税という経済的不利益処分のみとなる。
一方、租税における刑事罰は、罰金刑のほか懲役刑がある。平成22年度の税制改正では、下記のような租税罰則の強化が行われている。
ここで「懲役」とは刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる自由刑をいい、「禁錮」(刑事施設に拘置する自由刑)、「拘留」(1日以上30日未満刑事施設に拘置する自由刑)などと区別される。また「罰金」とは原則1万円以上の財産刑をいい、「科料」(1千円以上1万円未満の財産刑)や「過料」(行政上の金銭罰)などとは区別される。
なお「前科」とは法律上に定義はなく、下記のようないくつかの異なる意味で用いられている。
- 有罪判決で刑の言い渡しを受けたもの(検察庁が作成する「前科調書」の記載とほぼ一致)
- 上記1.のうち、時間の経過により刑の言い渡しの効力が法律上消えたものを除いたもの(市町村ごとに管理される「犯罪人名簿」の記載とほぼ一致)
- 主に懲役刑・禁錮刑の言い渡しを受けたもの(罰金刑以下は前科としない)
前科は、戸籍や住民票、住民基本台帳等に記載されることはない。
●国税局査察部(マルサ)
一般の刑事事件では、犯罪に対し、警察などの捜査から一連の手続きが始まる。
(出典:検察庁サイト)
それに対し、脱税などの租税犯罪では、その特殊性、専門性のため警察に代わって国税局査察部(通称マルサ)が中心となり、国税犯則取締法に基づいた調査を行う。
マルサは、全国11の国税局及び沖縄国税事務所のうち、東京、大阪、名古屋の3つの国税局に設置されている。一般の税務調査が質問検査権に基づく任意調査であるのに対し、査察調査は租税犯の摘発を目的とした強制調査であり、裁判所から許可状を得て、捜索、差押えなどを行うことが許されている。また、調査において重大な不正が発覚した場合、検察に直接告発できるのはマルサだけとされている。
ちなみに実際の「マルサの女(男)」とはどんな方々かというと、こんな方(意外と普通にやさしそう!?)だったり、こんな方(顔を隠しているのは内偵の関係上?)だったりする。
また、マルサに似た部署に料調というものがある。料調とは、各国税局に設置されている資料調査課のことを指し、その調査自体は任意調査であるが、大規模、悪質な不正手口の解明を目的とし、ミニマルサと呼ばれ厳格(強引)な調査を行うことで恐れられている。
一般の税務調査、料調調査、そして査察調査を比較すると以下のようになる。
(*1)法人税法153条~157条、所得税法234条~236条など
(*2)法人税法162条、所得税法242条9号など
●告発、起訴、実刑の基準
国税犯則事件における告発、起訴、実刑の判定に関しては、明確な基準があるわけではない。が、目安としては一般に以下のように言われている。
- 告発、起訴の目安金額 … 脱税額1~2億円
- 実刑の目安金額 … 脱税額3億円程度
- 罰金の目安金額 … 脱税額の20~25%
量刑の判定基準としては、脱税額のほかに、脱税率、脱税方法、脱税動機、脱税した資金の使途、脱税所得の取得原因、罪証隠滅工作の有無、修正申告・納税の有無、経理体制の改善、同種の前科・前歴の有無などがあるとされている。
●平成23年度査察の概要
7月に国税庁から公表された「平成23年度査察の概要」によると、平成23年度において、査察部から検察への告発率は61.9%、検察から裁判所への起訴率は100%、起訴されたものうのち有罪となった有罪率は100%となっている。査察が入ると、61.9%×100%×100%=61.9%の確率で有罪となるということである。
告発した事案1件当たりの脱税額は平均1億3,400万円で、上記の告発、起訴の目安金額(脱税額1億円~2億円)に近い。
有罪のうち実刑判決が下されたのは9人で、一件当たりの犯則税額は1億2千万円、1人当りの懲役月数は15.3ヶ月、1人(社)当りの罰金額は2千3百万円となっている。
上記の実刑の目安金額(脱税額3億円程度)に比べると、1件当たりの犯則税額はかなり低いと言える。ちなみに、前年、前々年の1件当たりの犯則税額はさらに低く、1億円を割っている。(どういうことなのだろう?)
●最近の租税罰則に係る税制改正
先に述べた平成22年度税制改正における罰則強化のほかに、最近では下記のような罰則に係る税制改正が行われている。
(平成23年度税制改正)
- 「故意の申告書不提出によるほ脱犯に対する罰則」の創設 … 5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科
- 「消費税の不正受還付未遂罪」の創設 … 10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金又は併科
(平成24年度税制改正)
- 「国外財産調書制度」の創設 … 虚偽記載などに対し、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
(望月)