国外財産に係る税制
2012/08/31 金曜日平成24年度税制改正において、国外財産調書制度が創設された。これは個人が国外財産を保有する場合の制度であるが、国外財産についてはこの他にも、その取得から運用、譲渡、相続、消費税等に至るまで、日本の各税制において取扱いが定められている。
居住者が12月31日時点において5千万円超の国外財産を有する場合には、翌年の3月15日までに、その財産の種類、数量及び価額等を記載した調書(国外財産調書)を税務署に提出しなければならない。
適用は平成25年12月末時点の国外財産からとなり、最初の提出期日は平成26年3月15日となる。詳細については例えばこちらなど。
ここで国外財産が何を指すのか、すなわち財産の国内外の判定については、相続税法10条が準用される。主な財産の判定基準は以下のようになる。
- 不動産 … 不動産の所在
- 預貯金 … その受入をした営業所又は事業所の所在
- 退職手当金等 … 支払者の住所又は本店若しくは主たる事務所の所在
- 貸付金債権 … 債務者の住所、又は本店若しくは主たる事務所の所在
- 株式、社債等 … 発行法人の本店又は主たる事務所の所在
- 集団投資信託、法人課税信託 … 信託の引受をした営業所又は事業所の所在
- 国債、地方債 … 日本国内(外国債はその外国)
金融資産については取引先の営業所等の所在で判定するものと、本店等の所在で判定するものとがある。具体的には、
- 外国銀行の在日支店にある預金は、国内財産
- 国内銀行の海外支店にある預金は、国外財産
- 外国法人からの退職金は、国外財産
- 非居住者あるいは外国法人への貸付金は、国外財産
- 東証上場の外国会社(*)株式は、国外財産
- 国内で購入した外国債は、国外財産
となる。
信託については少々わかりづらいが、ファンド等の設立地などで判定するとすれば、国内で販売されたものであっても、あるいは日本株を投資対象とするものであっても、外国投資信託に分類されるものは国外財産となる(と思われる)。【要研究】
(*)現在、東証上場の外国会社は11社存在するが、ピーク時の1991年12月にはなんと127社もあった(→東証上場の外国会社の推移)。だ、だいじょぶか、ニッポン…。
●国外送金等
海外で自ら開設した口座に国内から送金することにより、国内財産(国内預金)を国外財産(国外預金)に移し替えることができる。
国外への送金あるいは国外からの送金の受領に対しては、平成10年の外為法改正に合わせて制定された「内国税の適正な課税の確保を図る為の国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」(以下、「国外送金等調書法」と呼ぶ)の適用がある。
そこでは、国外送金等を行う際の金融機関への告知書の提出や、送金額が一定額を超す場合の金融機関から税務署への国外送金等調書の提出等が義務付けられている。
ちなみに上記の国外財産調書制度の規定も、税法の中にではなくこの国外送金等調書法の中に制定されている。
法律の施行当初、国外送金等調書の提出基準は200万円であったが、平成21年の国外送金等調書法の改正により現在は100万円に引き下げられている。
また、金融機関を通さず、ハンドキャリーで100万円超の現金等を国外に持ち出したり、あるいは国外から持ち込んだりする場合にも、税関において所定の手続きを行う必要がある。
【参考】
●国外財産の相続、贈与
相続の際、国内財産に関しては相続人が誰であろうと相続税の課税対象となるが、国外財産に関しては下記のいずれかに該当する場合に限り、日本の相続税が課せられる。
- 相続人の住所が日本国内にある場合(居住無制限納税義務者)
- 相続人が日本国籍を有し、かつ被相続人又は相続人が相続開始前5年以内に日本国内に住所を有していたことがある場合(非居住無制限納税義務者)
したがって、以下のような場合には、国外財産に対し日本の相続税は課されない。
- 相続人が外国籍で外国に住所がある
- 被相続人及び相続人が相続開始前5年以内に日本国内に住所を有しない
また、国外財産に対し、日本の相続税のほかに外国の相続税に相当する税が課される場合には、二重課税回避のために外国税額控除の適用がある。
国外財産の贈与についても、上記相続と同様の取扱いとなる。
【参考】
(国外財産の評価関係)
- 国外財産の評価-取引金融機関の為替相場(1)
- 国外財産の評価-取引金融機関の為替相場(2)
- 国外財産の評価-取得価額等を基に評価することについて課税上弊害がある場合
- 国外財産の評価-国外で相続税に相当する税が課せられた場合
- 国外財産の評価-土地の場合
- 国外財産の評価-取引相場のない株式の場合(1)
- 国外財産の評価-取引相場のない株式の場合(2)
- 外貨(現金)の評価
(贈与関係)
●国外財産から生じる所得
居住者及び内国法人が全世界の所得に課税(全世界所得課税)されるのに対し、非居住者や外国法人は、日本国内で発生した所得、すなわち国内源泉所得のみが課税対象となり、国外源泉所得については日本では課税されない。
国内源泉所得税ついては、所得税法161条及び法人税法138条で列挙されているが、基本的には、国内事業又は国内にある資産の運用、保有、譲渡により生じる所得をいう。
したがって、例えば次のような国外財産から生じる所得については、国内源泉所得ではなく国外源泉所得になると考えられる。
- 国外にある不動産の貸付又は譲渡
- 国外の支店等に預けられた預貯金の利子
- 外国会社株式の配当又は譲渡
- 外国債及び外国会社債券の利子又は譲渡
ただし、このうち外国会社株式などの有価証券等に関しては、その配当や利子は国外源泉所得となるものの、その譲渡により生じる所得については、当該取引を行う市場や仲介する営業所の所在により国内外が判定されるため、国内源泉所得になることもある。(法人税法施行令177条2項2号)
また、国外財産から生じる所得に対し、日本の税金のほかに他国の税金が課される場合には、相続税などと同じく外国税額控除の適用がある。
【参考】
●国外財産に係る消費税
日本の消費税は、国内取引及び輸入取引を課税対象とし、国外取引については課税対象外(不課税)としている。不課税取引は、課税事業者の課税売上割合の算定において計算から除外される。
<国内取引>
資産の譲渡、貸付に関する取引の国内外の判定は、取引が行われる際の当該資産の所在していた場所による。(消費税法4条3項1号)
したがって、例えば下記のような取引はすべて国外取引となり不課税となる。
- 国外にある建物の購入
- 国外不動産のテナントへの賃貸
逆に、例えば国内にある外国会社株式を国内で譲渡した場合には、国内取引となり不課税ではなく非課税扱いとなる。
ただし、この外国会社株式が株券不発行である場合には、有価証券の所在場所がないため国内外の判定を行うことができないが、消費税法施行令6条1項10号《資産の所在場所が明らかでないものの内外判定》の規定により譲渡を行った事務所等の所在地により判定されることになる。
輸入とは国外財産を日本国内に引き取る行為といえるが、その際、輸入者は輸入申告書を提出し、同時に消費税を納付する必要がある。
免税事業者でも、さらには事業者以外でも納税義務者になる点、輸入品の引取の際にその都度納税義務が発生する点、課税標準が実際の取引金額ではなく関税課税価格に関税等を加えた金額である点が特徴といえる。
<みなし輸出取引>
逆に、海外での販売や利用のために資産を海外支店などに輸出する行為は、国内財産を国外財産に転化する行為といえる。
消費税法では、このような内部取引であっても輸出売上(免税取引)とみなして、課税売上割合の算定に課税売上高としてその額(FOB価格)を加味することになる。
【参考】
(望月)