消費税事業者免税点制度
2012/10/11 木曜日●平成23年度税制改正
平成23年度税制改正では、消費税について「95%ルール」の見直しなどとともに事業者免税点制度の改正が行われた。
従来は、「基準期間」の課税売上高のみをもって事業者免税点制度の適用の可否を判定していたが、今回の改正では、新たに「特定期間」を設け、その期間内の課税売上高あるいは給与等支払額を判定要素に加えることになった。
基準期間と特定期間の両方において適用要件を満たす時、はじめて免税事業者になることができる。
●事業開始後2年度目
従来、会社設立後2事業年度あるいは事業開始年より2年間(個人事業者)は、基準期間がないため自動的に免税事業者になることができた。
しかし、今回の改正により、初年度の上半期の課税売上高あるいは給与等支払額次第では、2年度目から課税事業者になる可能性が生まれた。
なお、下記の法人については上記に係らず設立後2年間は課税事業者になる。
- 資本金1千万円超の法人
- 課税売上高5億円超の法人が株式の過半数を直接、間接的に保有する法人(平成26年4月1日以後設立法人より適用)
●基準期間
(個人事業者の場合)
個人事業者については、基準期間はその年の前々年となる。
年の途中から事業を始めた場合でも、個人の場合には課税売上高を12ヶ月換算して判定することはしない。(消費税法9条第2項第1号)
(法人の場合)
法人については、その事業年度の前々事業年度が基準期間となる。
ただし、前々事業年度が1年未満である場合は、その事業年度開始の日の2年前の日の前日から1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間が基準期間となる。この場合、基準期間は1年未満になる場合と1年以上になる場合がある。
・1年未満になる場合
・1年以上になる場合
また、基準期間が1年未満あるいは1年超の場合には、個人事業者とは異なり、課税売上高を12ヶ月換算して免税点制度の適用の可否を判定することになる。(消費税法9条第2項第2号)
●特定期間
(個人事業者の場合)
個人事業者における特定期間は前年の1月1日から6月30日までの期間をいう。
その期間の途中から事業を始めた場合でも6ヶ月換算することはせず、また7月以降に事業を開始した場合にはこの年に特定期間は存在しないことになる。
(法人の場合)
法人における特定期間は、原則として前事業年度開始の日以後6ヶ月間をいう。(消費税法9条の2第4項2号)
・6ヶ月の期間の特例
事業年度開始の日以後6ヶ月間の末日が事業年度の終了応当日(*)でない場合には、6ヶ月間の末日の直前の終了応当日までの期間が特定期間となる。(消費税法施行令20条の6)
この時、特定期間の長さは6ヶ月ではなく「5ヶ月+α」となる。
→【事例1】(後出)
(*)「終了応当日」とは、事業年度終了日に応当する同一事業年度の各月の日(決算日が3月20日である場合の4月20日や9月20日など)をいう。
・前事業年度に特定期間があるための要件
改正消費税法では、事業年度開始の日以後6ヶ月間の末日から事業年度終了日までの期間が2ヶ月間に満たない場合、その事業年度には特定期間を設けないことにしている。
これは6ヶ月間の課税売上高等の集計や簡易課税制度選択届出等の提出などの事務手続の時間を考慮した措置と思われる。
したがって、前事業年度内に特定期間があるためには、上記の期間の特例の場合であっても、前事業年度は7ヶ月超(=「5ヶ月+α」+2ヶ月)の期間を有することが必要となる。
前事業年度が7ヶ月以下の時、特定期間は前事業年度内にはないことになるが、このような前事業年度を「短期事業年度」という。
・前事業年度が7ヶ月超8ヶ月未満の場合
前事業年度が7ヶ月超の場合、原則として特定期間は前事業年度内に存在することになる。しかし、会社設立後6ヶ月の期間経過後に決算期変更を行い、その結果、事業年度が8ヶ月未満となるような場合には前事業年度は短期事業年度となる。
→【事例2】(後出)
・前事業年度が短期事業年度である場合(消費税法9条の2第4項3号)
前事業年度が短期事業年度である場合、特定期間の判定は前々事業年度に移行する。この時、前々事業年度の期間の長さによって特定期間の扱いは変わる。
・前々事業年度が6ヶ月超の場合 → 前々事業年度開始の日以後6ヶ月の期間
・前々事業年度が6ヶ月以下の場合 → 前々事業年度開始日から終了日までの期間
特定期間が6ヶ月未満となっても、事業者免税点の判定において課税売上高などを6ヶ月換算することはしない。
・前々事業年度に特定期間が存在しない場合
前々事業年度に特定期間の判定が移行する場合でも、下記に該当する場合には、前々事業年度に特定期間は存在しないこととされる。(消費税法施行令20の5②)
- 前々事業年度が基準期間に含まれるもの
- 6月超の前々事業年度で6ヶ月の期間の末日から翌事業年度の終了日までの期間が2月未満
- 6月以下の前々事業年度で翌事業年度が2月未満であるもの
このうち、「1.前々事業年度が基準期間に含まれるもの」とは、例えば次のようなケースをいう。
特定期間が前事業年度にも前々事業年度にも存在しない時、当事業年度において特定期間はないことになる。
・「消費税法第9条の2 事業者免税点の判定について」
特定期間の扱いが個人事業者に比べ法人の場合にこのように異常にややこしくなるのは、
- 事業年度の開始日(会社設立日)を自由に選べる
- 決算日を自由に設定できる
- 決算期変更を自由に行うことができる
ことに起因するといえる。
「消費税法第9条の2 事業者免税点の判定について」(平成23年9月税務署)では、「その法人の設立日や決算期変更の時期がいつであるかにより特定期間が異なる場合がある」として5つの具体的な事例を挙げて解説している。
- 【事例1】前事業年度終了の日は月末であるが、月の途中で設立したため前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間の末日が月末でない場合
- 【事例2】新たに設立した法人で事後に決算期変更を行ったため前事業年度が短期事業年度に該当する場合
- 【事例3】決算期変更を行ったため前事業年度が短期事業年度となる場合で、前々事業年度が基準期間となる場合
- 【事例4】決算期変更を行ったため前事業年度が短期事業年度となる場合で、前々事業年度が6か月以下の場合
- 【事例5】決算期変更を行ったため前事業年度が短期事業年度となる場合で、前々事業年度開始の日以後6か月の期間の末日が月末でない場合
●節税の余地
法人の場合、初年度を短期事業年度にすれば2年度目を免税にすることができる。その方法としては、下記の2つがある。
- 設立時において初年度の期間を7ヶ月以下にする
- 初年度の途中に決算期変更を行って短期事業年度にする
2.の方法の場合には、設立後6ヶ月間の課税売上高や給与等支払額を確認した上で決算期変更すべきか否かを判断できるので、1.の方法よりも節税にはより有効といえるが、決算期変更のタイミングを間違えたり、失念したりすると2年度目より課税事業者になってしまうリスクがある。
一方、個人の場合には、初年度の6月までの課税売上高あるいは給与等支払額が1千万円以下になるように開業のタイミングを考える、ということになるだろう。
また、法人、個人事業者ともに、給与の支給日をできるだけ遅らせて(例えば、月末締翌月10日払など)特定期間内の給与の支払回数を減らしたり、賞与の支給を上半期ではなく下半期にするなどして、特定期間内の給与等支払額を減らすという方法が考えられる。
(望月)