とかく所得区分は難しい
2013/06/04 火曜日競馬の払戻金に対する課税において、ハズレ馬券も経費に計上できるとの判決が大阪地裁で下され、世の競馬ファンにちょっとした希望とちょっとした誤解を与えたことは記憶に新しい。というか、つい最近の話だ。
競馬の払戻金が「雑所得」とされれば、ハズレ馬券代は必要経費となるが、「一時所得」とされると必要経費にはならない。
大阪地裁は、今回の事案については雑所得が相当とし、ハズレ馬券の経費性を認めたが、競馬の払戻金の全てが同様の扱いとなるとしているわけではなく、また、その後に大阪地検が控訴したため決着はまだ着いていない。
あえて今後の裁判の行方を予想するならば、私は一時所得、つまり地検勝訴の方にベットしたい。少数派のようなので高配当が期待できそうだし。(不謹慎ですみません)
この事案をはじめ、所得税では「所得区分」がたびたび問題となる。 少し古い資料にはなるが、日本税理士会税制審議会が平成16年に答申としてまとめた「所得税制における所得区分と課税方式のあり方について」には以下のような記述がある。
現行所得税法は10 種類の所得区分の規定を置いているが、その区分の基準や考え方は必ずしも一様ではなく、明確な指標はない。
例えば、利子所得と配当所得の区分は、預貯金又は株式という所得の基因となった資産の種類によって区分される。したがって、給与所得者の有する預貯金から生じた利子も事業所得者の事業用の預貯金から生じた利子も同様に利子所得とされる。
これに対し、事業所得と事業に類似した雑所得の区分についてみると、所得の基因となる取引行為が反復・継続して行われ、事業的規模を有する場合は事業所得とされるが、そうでなければ雑所得に区分される。これは、所得の基因となる資産の種類による区分ではなく、取引の形態又は規模に着目した区分である。
また、不動産所得と事業所得については、不動産の貸付けが事業的規模で行われていても、その所得は事業所得ではなく不動産所得に区分されるのであるが、これは、事業の規模ではなく、その所得発生の基因を不動産という資産に求めるものか、それとも労務又は役務の提供に求めるものかの相違である。
(下線は望月)
今回の競馬の払戻金についても、競馬という博打から生じた所得という側面からみれば一時所得になるだろうし、馬券への投資額や投資回数、勝率などの側面を重視するならば、大阪地裁のように雑所得という判断になるだろう。
とかく所得区分は難しい…
ということで、所得区分が争点になった最近の主な事例を集めてみた。
●事業所得 vs 給与所得
「麻酔科医師が手術等を行った8病院から得た各収入が事業所得に当たるか、給与所得に当たるかの判定が争われた事件」。
「報酬が給与所得に該当すると、企業は所得税の源泉徴収義務を負うとともに、その報酬について消費税の仕入控除ができなくなる」。所得区分の問題は所得を得る者だけでなく、「報酬を支払う企業」側の問題でもある。
●事業所得 vs 雑所得
・副業所得
サラリーマンなどが行う副業が雑所得ではなく事業所得になれば、赤字の場合に他の所得との損益通算が可能となる。これを悪用したコンサルタントが今年に入って続けて摘発されている。
●給与所得 vs 一時所得
「日本のコンパック株式会社の従業員だった人(被控訴人)が米国コンパック社からもらったストックオプションを一時所得でなく給与所得であるとして更正処分をされたことについて争っていたもの」。
●不動産所得 vs 雑所得
・国税庁・航空機リース訴訟で約50億円の追徴課税処分を取消し
「航空機リース事業における減価償却費等の損益通算の可否が争われたもの。各組合契約が民法上の組合契約か利益配当契約かどうかが主な争点となっていた。」
●一時所得 vs 雑所得
今回の競馬の払戻金課税の話。「馬券のプロ」ということであれば、事業所得という見方もアリか。
●譲渡所得 vs 雑所得
「税理士事務所を他の事務所に承継する際に受領した金員の所得区分の判定が争われた事件」。
「職務発明に係る相当の対価を求めた訴訟で受領した和解金が、雑所得に該当するか譲渡所得に該当するかの所得区分の判定が争われた事件」。
なお、所得区分に関する裁決事例については、国税不服審判所のサイトの「裁決事例要旨/所得税法関係/所得の種類」(「総則」の次の章)に多くの事例がまとめられている。
(望月)