総額表示義務の特例と価格表示、代金決済、税額計算
2014/03/25 火曜日いよいよ来月より消費税の税率が8%に引き上げられる。
実務上の具体的な取扱いについてはデリケートな部分も多く、国税庁から公表されている下記の2つのQ&Aを参考にして、コツコツと対処していかざるを得ないと思われる。
今回の税率の引上げでは、消費税転嫁対策特別措置法の施行により、中小企業者への買いたたき禁止などと共に、総額表示の義務付けを緩和する措置(総額表示義務の特例)が講じられた。
しばらくの間は、小売業でも、値札や広告等の価格表示を税込価格とするか、税抜価格とするかの選択ができることになる。(スーパー業界では税抜価格が主流となる模様だ。)
税込価格か、税抜価格かという選択の問題は、「価格表示」だけなく、「代金決済」の計算方法においても存在する。
また、消費税の課税標準に対する消費税の「税額計算」には、原則的な方法以外に積上げ計算の特例という選択肢がある。
総額表示義務の緩和にあたり、消費税に係る「価格表示」、「代金決済」、「税額計算」の関係について改めて考えてみた。
●価格表示 ~「総額表示」と「税抜表示」
値札や広告等において商品などの価格を示す場合、消費税を含めた税込価格による方法(=総額表示)と消費税を含めない税抜価格による方法(=税抜表示)の2つの方法がある。
平成元年の消費税の導入以降、価格表示について特に制約はなかったが、平成16年に消費者に対する販売においては総額表示が義務付けされ、そして今回、二度にわたる消費税率の引上げに際して、一定期間(平成25年10月から平成29年3月まで)は、消費者への販売においても税抜表示が認められることになった。(事業者間取引においては、従来より制約はない。)
なお、税抜価格で価格表示する場合には、消費者に税込価格であると誤認されないための誤認防止措置を講じることが求められている。
●代金決済 ~「税込ベース計算」と「税抜ベース計算」
例えば、税込価格100円の商品を10個購入する時、決済(支払)額は、いくらになるだろうか。100円×10個=1,000円になるとは、実は限らない。
その店のレジが各商品の税抜価格を基礎に計算するシステムである場合には、決済額は以下のように、1,004円と計算される。(以下、消費税は8%として計算する。)
- 消費税 : 100円÷1.08×8%=7.40…円 →7円(切捨て)
- 税抜価格 : 100円-7円=93円
- 決済額 : 93円×10個×1.08=1,004円
消費税に端数を持つ商品を複数購入するケースでは、税込価格を基礎にして計算する方法(「税込ベース計算」と呼ぶことにする)と税抜価格を基礎にして計算する方法(「税抜ベース計算」と呼ぶことにする)では、代金の決済額に差が生じることがある。(生じないこともある。)
また、代金決済額の計算は、通常、レジシステムや販売管理システムなどで行われるので、その計算方法を変更するには、レジシステムや販売管理ソフトの切り替えや入れ替えを伴うことになる。
●税額計算 ~「原則」と「積上げ計算の特例」
課税標準に対する消費税の額は、原則では、領収書や請求書上の決済額を集計した額に「税率/1+税率」を掛けて計算するのに対し、積上げ計算の特例では、領収書や請求書上の消費税の額を単純に集計した額として計算される。
積み上げ計算の特例は、少額・大量の取引を行う小売業者等を念頭にして旧規則22条第1項で定められていたが、小売業者への総額表示の義務付けと共に平成16年に廃止された。が、実はその後も経過措置として生き残り、今回の改正では、その適用範囲が拡大されることになった。
●価格表示と代金決済の関係
価格表示と代金決済の計算方法の組合せは、2×2=4つのパターンがある。
- 税抜表示×税抜ベース計算
- 総額表示×税込ベース計算
- 税抜表示×税込ベース計算
- 総額表示×税抜ベース計算
税抜表示の場合には税抜ベース計算が、総額表示の場合には税込ベース計算が義務付けされているわけではない。
ただし、「総額表示×税抜ベース計算」の場合には、先の例でみたように、購入者の予想する金額よりも実際の決済額が大きくなる可能性があり、それによって生じるトラブルを防ぐ手段として、公正取引委員会では、レジシステムの変更のほかに、以下のような方策を提示している。
- 税込価格の表示に加えて、端数処理前の税込価格(例えば、94.5円のように)を明示する
- 表示単価に購入個数を掛けた金額と決済金額が異なることがあり得ることを明瞭に表示する
値札において消費税の端数を切り上げた価格を表示し、代金決済の計算で消費税の端数を切り捨てる方法については、「単数購入する場合においても表示された金額と実際の購入金額が異なること」になるので、好ましくないとしている。
●税額計算との関係
旧規則22条第1項の廃止に合わせて設置された「経過措置1~3」では、価格表示と代金決済の上記4つの組み合わせと税額計算との関連(積上げ計算の特例の適用の可否)について規定している。
- 経過措置1 ・・・税抜表示×税抜ベース計算
- 経過措置2 ・・・総額表示×税込ベース計算、及び税抜表示×税込ベース計算
- 経過措置3 ・・・総額表示×税抜ベース計算
いずれのパターンでも、領収書や請求書等において端数処理した消費税相当額の金額を明示すること等を要件に、積上げ計算の特例の適用を認めている。
このうち、経過措置3については平成19年に廃止されたが、今回の総額表示義務の特例の制定に伴い、「当分の間」復活することになった。
●シミュレーション
いくつかのケースを想定して、経過措置の各パターンにおける「価格表示」、「代金決済額」、「課税標準に対する税額」のシミュレーションを行ってみた。同時に、各パターンで損益計算書(P/L)上に計上される売上高(=税込売上-消費税)について、各ケースごとに比較を行ってみた。
【ケース1】
- 商品価格は、 税込価格60円とする
- 一取引で、上記商品を3個販売する
- 一事業年度で、上記取引を10,000回行う
- 価格表示上、消費税の端数は切捨てる
- 代金決済の税抜単価計算上の消費税の端数は切り捨てる(=税抜単価は切り上げる)
- 領収書上、消費税の端数は切捨てる
(売上比較)
税抜ベース計算×特例 > 税抜ベース計算×原則 > 税込ベース計算×特例 > 税込ベース計算×原則
【ケース2】
- 商品価格は、税込価格70円とする
- その他は(ケース1)と同じ
(売上比較)
税抜ベース計算×特例 = 税込ベース計算×特例 > 税抜ベース計算×原則 = 税込ベース計算×原則
・代金決済額、消費税額、売上の全てにおいて、税抜ベース計算と税込ベース計算の結果が同じになるケース。
【ケース3】
- 商品価格は、税込価格80円とする
- その他は(ケース1)に同じ
(売上比較)
税抜ベース計算×原則 = 税抜ベース計算×特例 > 税込ベース計算×特例 > 税込ベース計算×原則
・税抜ベース計算において、消費税額が原則と特例で同じになるケース。
【ケース4】
- 【ケース3】において、領収書上の消費税の端数を切り上げる場合
(売上比較)
税抜ベース計算×原則 = 税抜ベース計算×特例 > 税込ベース計算×原則 > 税込ベース計算×特例
・【ケース3】に比べ、税込ベース計算の特例において消費税額が増え、その分売上が減少する。
・原則よりも特例の方が消費税額が大きくなる。
【ケース5】
- 【ケース3】において、代金決済の税抜単価計算上の消費税の端数を切り上げる(=税抜単価を切り下げる)場合
(売上比較)
税込ベース計算×特例 > 税込ベース計算×特例 > 税抜ベース計算×特例 > 税抜ベース計算×原則
・【ケース3】に比べ、税抜ベース計算において、代金決済額及び消費税額(原則及び特例)が減少し、売上も減少する。
[追加] シミュレーションの表に代金決済の単価欄を追加しました。(3/26付)
(望月)