住民税の特別徴収の徹底化
2014/11/21 金曜日今年も年末調整や給与支払報告書に関する資料が届く季節になった。今回、横浜市より届いた給与支払報告書の関係資料の封を開けると、見慣れぬチラシが入っている。
「平成27年度から原則として全ての事業者は特別徴収義務者に指定されます」
内容は、来年、平成27年度から住民税について「特別徴収」を徹底化するぞ!というものだ。
この動きは横浜市に限らず、平成23年ごろから全国の各自治体で見られるが、その背景には、平成19年度の国から地方への税源移譲により、個人住民税の負担が増え、それに伴って滞納額も増加しているということがあるようだ。
ちなみに、神奈川県下でも川崎市や横須賀市などは、横浜市から1年遅れて、平成28年度からの措置となる。
給与所得者に対しては特別徴収を原則とする旨の規定は地方税法321条の3で定められている。しかし、これまではそれが徹底化されておらず、実際には特別徴収を行っていない事業者も多かった。
給与受給者が自ら納付手続を行う普通徴収に対し、特別徴収は給与支払者たる事業者が受給者全員分の住民税の納付手続を行うことになる。
これによって市町村サイドとしては徴収管理がしやすくなるだろうが、事業者サイドとすると毎月の納付手続のほか、受給者の入退社時の手続なども増えるため、事務負担は普通徴収に比べて格段に増える。(普通徴収の場合、住民税に関して事業者が行うことといえば、給与支払報告書の提出のみであった。)
住民税の特別徴収は、事業者が給与から天引きし納付を行うという点では、源泉所得税と似た点があるが、両者では以下のように異なる点も多い。
(対象者)
- 源泉所得税 : 給与受給者全員
- 特徴住民税 : 一部例外あり
(納税額)
- 源泉所得税 : 事業者が毎月計算
- 特徴住民税 : 市区町村より事業者に通知
(納付日)
- 源泉所得税 : 翌月10日納付
- 特徴住民税 : 毎月10日納付(6月~翌年5月)
(納付先)
- 源泉所得税 : 給与支払事務所の所在地の管轄税務署
- 特徴住民税 : 給与受給者の住所地の市区町村
(年末調整)
- 源泉所得税 : あり
- 特徴住民税 : なし
(入退社時の手続き)
- 源泉所得税 : なし
- 特徴住民税 : あり
(提出書類)
- 源泉所得税 : 法定調書合計表及び源泉徴収票(一部)
- 特徴住民税 : 給与支払報告書(普通徴収でも同じ)
(納期の特例制度)
- 源泉所得税 : 7月、12月の年2回納付
- 特徴住民税 : 6月、11月の年2回納付
*いずれも給与受給者の人数が常時10名以下の事業所が対象。
(電子納税)
- 源泉所得税 : 可能
- 特徴住民税 : 一部の市区町村のみ可能
住民税の特別徴収は、源泉所得税のように事業者が税額計算や年末調整を行う必要はないものの、受給者の住所地ごとに分けて納付手続を行ったり、受給者の入退社の都度手続が必要になるなど、源泉所得税にはない特有の手間がある。
事業者の事務負担軽減策としては、源泉所得税と同様、納期の特例制度の適用や電子納税の利用ということになるだろうが、電子納税については未だ未対応の市区町村も多い(*)。電子納税に対応していない市区町村に住む給与受給者が一人でもいれば、事業者は納付書を携えて銀行に出向かなければならない。
特別徴収制度には、納税通知書を通じて給与受給者の給与所得以外の所得情報が事業者に伝わってしまうリスクなどもあるが、法令上定められた制度ということであれば、納税者はそれに従わざるを得ない。
しかし、その目的が住民税の滞納額の削減であるのならば、納付手続の効率化を促進することもまた有効な対策であるはずである。
その有力な方策として、全国の各市区町村における「電子納税の体制整備の徹底化」も同時に進めてもらいたいところだ。
(*)神奈川県内では横浜市のみ、東京都内では東京都のみが電子納税に対応。(eL-TAX「地方公共団体ごとのサービスの状況」)
(参考)「個人住民税の特別徴収制度に関する一考察」東春樹税理士(平成26年10月15日付「税理士界」掲載)
(望月)