「中小法人の範囲と税制のあり方」
2016/05/26 木曜日法人や会社を「大」と「中小」に分けて法的な扱いを変えることは、例えば、法人税法や中小企業基本法、会社法などで行われている。
しかし、各制度で区分する基準は必ずしも同じではなく、したがって「中小法人」や「中小企業」の範囲も一致しない。
法人税法では区分基準として「資本金基準」を採用し、資本金1億円未満以下の中小法人に対し一定の優遇措置(中小法人税制)を講じている。
が、ここへ来て、資本金が企業規模を適正に反映するものなのかという疑問や、わざわざ減資をして中小法人税制の適用を受けようとする企業も出るなどして、資本金基準の妥当性について懐疑的な目が向けられつつある。
今年の3月に日本税理士連合会の税制審議会により公表された「中小法人の範囲と税制のあり方について」(以下、答申)では、「資本金基準」以外の具体的な区分基準がいくつか示され、それぞれに検討が加えられている。
答申で検討された基準は以下のとおり。(Ⅱ.2.資本金以外の基準の論点より)
(1)従業員数
- 中小企業基本法や取引相場のない株式の評価方法などで採用
- 雇用形態の多様化による従業員の範囲の問題あり
- 業種によって従業員数に相当の差異あり
- 従業員の変動が大きい企業や業種における予見可能性の問題あり
(2)所得金額又は売上高
- 担税力を測る基準として適切
- 事業年度ごとに変動するため、予見可能性が確保されず、法的安定性の観点から問題多し
- 業種による売上高の格差が大きい
(3)資本準備金の額又は資本金等の額
- 原則として株主への払戻しが禁止されているため安定的な基準
- 大法人の無償減資による「中小法人成り」には対処できない
- 法人税法上の「資本金等の額」を基準にすれば上記の問題に一定の歯止めは可能
(4)純資産価額又は総資産価額
- 企業の潜在的な担税力を示す指標として基準となり得る
- 事業年度ごとに変動するため、予見可能性の問題あり
- 総資産価額は設備投資型産業であるか否かで相当の格差あり
- 業種ごとに適切な指標の必要性
(5)付加価値額(=報酬給与+純支払利子+純支払賃借料+単年度損益)
- 所得金額等に比べ比較亭安定的に推移する傾向
- 事業年度ごとの変動は避けられず安定的な基準とは言いがたい
- 業種ごとに相当の格差あり
- 業種ごとに適切な指標の必要性
(6)株主(出資者)の数及び出資割合
- 会社創設の経緯等により株主構成は会社により千差万別
- 株主の数、出資割合について適正な区分基準を定めることができるか否か
答申の結論としては、(2)(4)(5)(6)は予見可能性等の観点で問題多いとして、「さしあたり資本金の額と従業員数との組み合わせた指標により中小法人の範囲を定めることが適当である」としている。
また、その際の従業員数としては、「業種ごとに異なる従業員数基準を設定しない場合には、「1,000人」が一つのメルクマール」だとしている。
さて、上記に挙げられた基準以外の方法を無理やり考えてみると、例えば以下のような区分基準もあるように思うが、どんなもんだろうか。
○負債総額
- 会社法で採用(負債総額200億円以上は大会社)
- 外部資金調達力は一定の担税力を示す
- 事業年度ごとの変動の問題あり
- 業種間格差の問題あり
○事業所の面積
- 事業所税の免税点の基準として採用
- 大きい建物・敷地を有する会社が大企業だというのは直感的にはわかりやすい
- 大きな賃貸物件を有していれば従業員一人であっても大企業になってしまう
- 業種間格差が大きい
○AIの利用度
- いずれAIが人間の一部の仕事を奪うのだとすれば、従業員数と合わせてAIの利用度も一つの基準になるかもしれない
(望月)
………………
<参考>
中小法人の範囲と税制のあり方について
平成28年3月17日 日本税理士連合会税制審議会
「目次」
はじめに
Ⅰ.中小法人に対する税制と現行制度の問題点
1.中小法人税制の概要
- 軽減税率制度
- 欠損金の繰越控除制度
- 貸倒引当金制度
- 留保金課税制度
- 交際費課税制度
- 租税特別措置(研究開発税制/所得拡大促進税制/中小企業投資促進税制/少額減価償却資産)
- 外形標準課税制度
2.現行制度の適用上の問題点
Ⅱ.中小法人の範囲の見直しの視点
1.資本金基準の見直し
2.資本金以外の基準の論点
- 従業員数
- 所得金額又は売上高
- 資本準備金の額又は資本金等の額
- 純資産価額又は総資産価額
- 付加価値価額
- 株主(出資者)の数及び出資割合
3.中小法人の範囲のあり方
- 資本金基準について
- 従業員数基準について
- 資本準備金又は資本金等の額について
- 中小法人の範囲のあり方
Ⅲ.中小法人に対する税制のあり方
- 中小法人税制の必要性
- 中小法人税制のあり方
Ⅳ 中小法人に対する個別の税制のあり方
- 法人税の税率構造
- 欠損金の繰越控除
- 貸倒引当金
- 租税特別措置
- 留保金課税
- 事業税の外形標準課税
おわりに