雇用促進(?)税制

2011/09/07 水曜日

今年の税制改正により施行された「雇用促進税制」。青色申告者(法人及び個人事業者)が新たに人を雇用した場合、一定の要件のもと一人当たり20万円の税額控除が受けられるという制度である。

概要は以下のとおり。

(適用要件)

  • 雇用者(雇用保険被保険者)が期中に5人(中小企業者は2人)以上かつ10%以上増加 ex.) 雇用者20人以下の中小企業者の場合、2人雇えば適用あり
  • 適用事業年度及び前事業年度に事業主都合による離職者がいない
  • 適用事業年度の給与等支給額が比較給与等支給額(*)以上であること
  • 風俗営業等以外の事業者

(*)比較給与等支給額=前事業年度の給与等支給額+前事業年度の給与等支給額×雇用増加割合×30%

(手続き)

  • 事業年度開始後2カ月以内に雇用促進計画をハローワークに提出(平成23年4月1日から8月31日までに開始した事業年度は同年10月31日までに提出)
  • 事業年度終了後2カ月以内に達成状況を記載した書類をハローワークに提出し、確認書類の交付を受ける
  • 確認書類を添付して確定申告を行う

(留意事項)

  • 雇用者には役員の特殊関係者(親族等)及び使用人兼務役員は含まない
  • 組織再編(合併等)に伴う雇用者の移動は雇用増にカウントしない
  • 設立初年度、解散事業年度、清算事務年度には適用しない

(税額控除の限度額)

  • 法人:法人税額の10%(中小企業者は20%)
  • 個人:事業所得に係る所得税の10%(中小企業者は20%)
  • 法人、個人とも繰越控除制度はない

(適用期間)

  • 法人:平成23年4月1日から平成26年3月31日までに開始する各事業年度
  • 個人:平成24年1月1日から平成26年12月31日までの各暦年

(問題の所在)

雇用促進のために雇用を増やした事業者に特典を与えるという制度の創設は事業者にとっては基本的には悪い話ではない。問題は雇用促進計画を事業開始後2カ月以内に提出することを手続き要件にしていることだ。

当初採用する予定はなかった、従って雇用促進計画書を提出していなかったが、「期の途中に急激に売上が伸びた」等々の理由で人を増やしたという場合には、その期に何人雇おうと本制度の適用はない。

だとすれば、その期には採用せず、来期、雇用促進計画を提出した後に採用しようと考える事業者が出てきても不思議ではないだろう。つまり、この制度があるおかげで雇用のタイミングが先延ばしされる可能性があるわけだ。それでは「雇用促進税制」ではなく「雇用先延ばし税制」である。

一人当たり20万円の税額控除のために人を採用しようとする事業者はおそらくいない。しかし、どうせ人を雇うのならば税額控除の適用のある事業年度に行おうとするのは事業者として合理的な経済行動である。

雇用の促進が目的ならば、結果的に雇用が増えれば良いわけだから、いちいち雇用計画を立てさせる必要は本来ないはずだ。事前確定届出給与制度などとは制度の趣旨が違う。

事業者の立場から言えば、これだけ環境の変化が激しく、経営にスピード感が求められている中で、1年前に雇用計画を立てるということは容易ではない。大企業ならともかく、中小企業にとってそれは無理な注文であり、また無意味な注文である。

実務的には(時間の無駄になる可能性は高いが)、雇用する可能性が少しでもある年度には一応雇用促進計画書を提出しておくという対処になるのであろう。あるいは、適用が不確実な制度のために手間をかけるのはナンセンスと割り切って無視するか…。

人好みのするお面はつけるものの、その適用に当たっては鬼のような手続・要件を要求するというのは、あるいはこういった特例措置における常套手法なのかもしれない。が、いまだにそんなんでいいのでしょうか?

雇用拡大を支援?

本気ですか?

(望月)