「中小企業」とは

2011/09/16 金曜日

「中小企業」というと一般には「大企業」に対する概念として、比較的小さめの会社という意味で用いられることが多い。しかし、それはれっきとした法律用語でもあり、それに該当するか否かによって法的な取扱いも変わってくる。少しややこしいのは、法律によってその定義が異なる点である。

 

●法人税法

法人税法では、以下の会社を「中小企業者」としている。(租税特別措置法施行令27条の4の10項)

(1) 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
ただし、同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円を超える法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が 1,000人を超える法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。)に発行済株式又は出資の総数又は総額の2分の1以上を所有されている法人及び2 以上の大規模法人に発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上を所有されている法人を除きます。

(2) 資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人

簡単にいうと、他の大きな法人に支配されていない資本金1億円以下の法人である。そして、この「中小企業者」には下記のような税法上の優遇措置がある。

  • 法人税の軽減税率
  • 交際費の一部損金算入
  • 留保金課税の免除
  • 欠損金の繰戻還付制度
  • 中小企業投資促進税制 etc.

 

●中小企業基本法

一方、中小企業基本法では、第2条において「おおむね」としながらも「中小企業者」の定義を行っている。

中小企業庁サイトより)

業種によって要件が異なるところ、また資本金以外に従業員の数を要件にしているところがミソだ。これに該当する企業に関しては、例えば下記のような制度の適用がある。

  • 中小企業退職金共済制度
  • 信用保証協会の保証制度
  • 中小企業倒産防止共済制度
  • 中小企業経営承継円滑化法 etc.

これら中小企業者(あるいはその周辺企業)への施策については、毎年、中小企業庁より発行されている「中小企業施策利用ガイドブック」にまとめられている。

 

●会社法

会社法ではどうであろうか。かつて商法では、会社を大会社、中会社、小会社と3つに区分していたが、会社法となった現在では、大会社についての定義のみを残し、それ以外については特に定義や名称を付けてはいない。(会社法第2条6号)

会社法では、大会社は「資本金5億円以上または負債200億円以上」の株式会社としている。大会社以外=中小会社(企業)と考えるならば、会社法においては、「資本金5億円未満かつ負債200億円未満」の株式会社が中小会社(企業)ということになる。

会社法上、大会社に対して下記のような規定があるが、大会社以外の会社ではこのような義務はない。

  • 会計監査人の設置義務
  • 監査役(会)あるいは3委員会の設置義務
  • 取締役(会)における内部統制の決定義務
  • 損益計算書の公告義務
  • 連結計算書類の作成義務(有価証券報告書提出会社のみ)

 

●中小企業の会計に関する指針

最後に、近年「中小企業の会計に関する指針」という中小企業向けの会計指針が公表されているが、その適用対象会社について次のような規定がある。

4.本指針の適用対象とする株式会社

本指針の適用対象は、以下を除く株式会社とする。

(1) 金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社

(2) 会計監査人を設置する会社(大会社以外で任意で会計監査人を設置する株式会社を含む。)及びその子会社

これらの株式会社は、公認会計士又は監査法人の監査を受けるため、会計基準に基づき計算書類(財務諸表)を作成することから、本指針の適用対象外とする。

すなわち、ここでは会計士監査を受けない会社を「中小企業」とし、その会計指針を規定している。

 

●出でよ、ベンチャー!

このように、各方面で中小企業(あるいはそれに類する)概念は異なる意味で用いられており、さらに「中小企業」「中小企業者」以外にも「中小会社」「中小法人」などと表現されることもあって、紛らわしいと言えば紛らわしい。

実際に、あのWikipediaの「中小企業」のページでは、「定義」としては中小企業基本法における中小企業者の要件を掲げながら、「メリット」の項目では法人税法における中小企業者を前提とした説明がなされていたりするので、気をつけねばならない。

とまれ、中小企業というと少し前までは「男はつらいよ」におけるタコ社長のイメージがどうしても付きまとった訳であるが、その呪縛から解放された今、法的な定義はさておいて新たなイカした中小企業のイメージを広めるチャンスがようやく到来したと言ってもいいだろう。(?!)

その中から世間をあっと言わせるようなイノベーティブ(革新的)な企業、すなわちベンチャー企業が数多く生まれてくることを心より願ってやまない。

(望月)