望月会計事務所

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News 2002.2月号

望月会計事務所
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 昨年9月11日のあのテロ事件以降、世界は「新しい世界」になった、と語られることがあります。この表現が適当なものか否かはさておき、確かにあの日以降、企業経営の分野では、大きな出来事が続いています。

平成13年 9月 マイカル倒産
平成13年11月 大成火災倒産
平成13年12月 米エンロン破綻
平成13年12月 青木建設破綻
平成14年1月 殖産住宅倒産
平成14年1月 ダイエー再建問題
平成14年1月 雪印食品事件

 この他にも、各業界において、合併や事業再編等の話題は後を絶ちません。

 また、なぜか脱税がらみの事件も、例年になく多く見られます。

平成13年10月 ライジングプロ社長、脱税容疑で逮捕
平成13年12月 野村佐知代(サッチー)、脱税事件
平成13年12月 自治労、裏金、脱税事件
平成13年12月 経済産業省所轄財団法人、申告漏れ
平成14年1月 元札幌国税局長(ハマツネ)、脱税事件
平成14年1月 代議士事務所代表(金庫番)、脱税事件
平成14年1月 業際都市開発研究所、不正入札、脱税事件

 経済、財政、政治等々、いずれを見廻しても、「新しい世界」は、前途多難な様相です。

 しかし、「新しい世界」となる直前の平成13年8月26日、こんな奇跡的な事件もありました。長崎の漁師が、海上で遭難し、約40日ぶりに無事救助された、という事件です。

 真夏の外海に、エンジンの故障した小船に一人、外部との連絡も途絶え、食べ物も底をつき、飲み水もなくなり、さらには台風にまで直撃されるというおまけつき。海難事故の場合、飢えなどの問題より前に、精神的パニックにより、1日持たずして命を落とすことも多いとのこと。まさにこれ以上あるか、という極限状況に違い有りません。

 しかし、この漁師は、海水を沸かして、やかんのフタに付着した水滴で水分を補い、キーホルダーを利用した手製の即席ルアーにより魚を釣り上げて飢えをしのぎ、真夏の照りつける陽射しや、台風による豪雨、大波から、自らの体と船を守り抜きました。生きるための必要条件を一つ一つ判断し、それを着実に実行したその冷静な判断力と行動力。「死ぬまでは、生きてみよう」という究極の前向きの開き直りが、この人が持っている能力を最大限に発揮させたのでしょうか。人事を尽くした結果、まさに天命により救われたといえるでしょう。

 この事件は、「新しい世界」を生きねばならない者に対する、「古い世界」からの最後のメッセージだったのかも知れません。人間であれ、会社であれ、国であれ、いかに困難な状況であろうと、的確な判断と行動さえあれば、「なかなか死なないものだ」という。

1. 平成14年度税制改正の大綱

 昨年12月、財務省より「平成14年度税制改正の大綱」が公表されました。(→別紙参照

 今回の改正は、連結納税制度の創設という大きな目玉はあるものの、それ以外は、これといった大きな改正は見当たりません。連結納税に関しても、連結付加税の導入等により、納税者が積極的に連結納税を選択するようなメリットがどれほどあるのかも、今の段階では疑問が残るところです。

 財政赤字、不況の深刻化等、この厳しい経済環境下において、税制のあり方が今改めて注目され、その根本的改革という問題が、具体的に議論されるようになってきました。来年度の税制改正において、それが実施される可能性も少なくはありません。

 税制改正という一つの経営環境の変化に対する対応も、今後しばらくは、より早期に、そして慎重に検討していく必要があるものと考えています。

 尚、今年度の税制改正の詳細については、3月末の法案成立後、例年と同じく5月頃に、冊子にてお渡しする予定です。

2. 租税回避行為 〜節税と脱税

 節税と脱税は、税負担を軽減させる目的で納税者が行う行為という点で共通します。が、それが発覚した場合、その扱いや評価には雲泥の差があります。

 節税は、税務上、特に問題となることは当然ながらありません。経営面から言えば、納税という資金流出を防ぐことになるのですから,むしろ評価されるべき行為だといえます。

 一方、脱税は、重加算税という特に重い加算税が本税に上乗せされると共に、税務当局からの目が厳しくなり、その後の税務調査が強化されることも予想されます。脱税金額が極めて多額であったり、その方法が悪質である場合には、逮捕にまで発展することもあります。こうなってくると、本人だけの問題ではなく、取引先の事業や家族の生活などにも影響は及びます。その典型例を、去年、私たちはサッチー事件で見ることになりました。

 それでは、節税や脱税とは、そもそもどのような行為を指すのでしょうか。

 税務において、税負担を減らす行為は、総じて(広義の)租税回避行為と呼ばれます。そして、これはさらに、節税、脱税、そして(狭義の)租税回避行為の3つに分けられます。

 節税とは、税法上予定されている課税軽減行為や特例などを利用するものです。したがって、それが税負担を軽減させたとしても、当局は認めざるを得ません。個人事業者の法人成りや、保険契約の有効利用などが、例として挙げられるでしょう。逆に、節税の余地があるにもかかわらず、それを利用しなければ、その分余計に納税していることになります。

 脱税とは、「仮装」「隠蔽」により租税を回避しようとする違法行為です。「仮装」とは、架空仕入や架空契約書の作成のように、存在しないものをあるように見せかけることで、「隠蔽」とは、売上除外や証拠書類の廃棄のように、事実の一部又は全部を隠す行為をいいます。「領収書は頭の中にある」とのたまって架空の経費を計上することは、「仮装」行為であり、また、実際の売上の2割ほどしか申告しないとすれば、元国税局長だろうと、「隠蔽」行為とみなされるのです。

 そして、もう一つの(狭義の)租税回避行為とは、税負担の軽減のみを目的とする、不自然で異常な行為をいいます。脱税ではないけれども、課税の公平性の観点から、節税として認めるわけにはいかないと当局が判断し、通常選択される行為に引きなおして、課税判断が行われるものです。同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条、所得税法157条)という包括規定(通称O157と怖れられている規定)が、その適用根拠となります。

 例えば、本来の相場と懸け離れた価格で行なわれる同族関係者間の取引や、欠損金を有する会社を継続会社とする合併などによって、課税軽減が達成される場合、これらの行為に課税軽減以外の合理的理由や経済的合理性がなければ、(狭義の)租税回避行為とみなされることがあるのです。

 実際の調査の現場では、税法の解釈や事実認定などの微妙な問題に関し、我々税理士と調査官との間で、意見が分かれることがあります。現行の申告納税制度の下では、税法の解釈などについて、納税者側にその第一義的権利があり、したがって、納税者の立場から堂々と調査官と見解を戦わせることは、むしろ本来の税務行政の姿だといえます。

 しかし、そのような場面で、納税者側に脱税行為という負い目があったとすると、納税者の意見に対する信憑性や信頼性が損なわれてしまい、上記のような調査官とのやりとりを有利に進めることが困難になるという事実は、一般の交渉や折衝と同様です。脱税行為は、その行為に関する問題だけでなく、他の問題にまで少なからず影響を及ぼしてしまうのです。

 元国税局長の税理士(逮捕直前に税理士登録を抹消しているので、正確には元税理士)の事件は、同業者として極めて恥ずかしく不愉快であり、税務当局や税理士の社会的信用を著しく損なうものでありました。が、元国税局長であろうと、脱税を指南したり、あるいは自らそれを行えば、相応の処罰に課せられる時代になったということもできるでしょう。皮肉にも、ハマツネ氏は、自らそれを納税者に対し証明したことになります。

 巷には、策におぼれた脱税まがいの行為を喧伝するような情報が確かに存在します。しかし、実態に即した節税の余地の徹底的な検証もせず、安易な租税回避策を採ったところで、それが納税者の意図どおりの結果を生むことは、まず少ないでしょう。また、「仮装」「隠蔽」するための時間的コストや精神的負担、そしてそのリスクを考えるならば、脱税は決して割のいいものでもありません。さらには、必要以上に課税回避に捉われてしまうと、利潤の追求という本来の事業目的を見失い、事業意欲そのものまで減退させてしまうことにも繋がりかねないでしょう。

 払う必要のない税金は、絶対に払わないようにすること。当たり前ではあるけれども、実はそれほど簡単ではないこのことが、税金対策の王道であり、極意であると私は信じています。