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残暑お見舞い申し上げます。
立秋という暦日の存在を無視するかのごとく、あいかわらず暑い毎日が続いています。秋らしい涼しさを味わうには、もうしばらく時の経過を待たねばならないようです。
皆様のご健勝を心よりお祈り申し上げます。
1.循環の落とし穴
エンロン、ワールドコムを始めとするアメリカ大手企業の相次ぐ倒産事件は、アメリカ型の企業経営や企業会計に対する信頼を大きく失墜させました。グローバル・スタンダードのはずであったアメリカ型をモデルに様々な制度改革を実行しつつある日本にも、今後その影響は及ぶものと思われます。(「2. 商法改正」で述べる最近の商法改正の中にも、アメリカ型コーポレートガバナンスの導入が盛り込まれています。)
役員等への報酬、他社の買収、社員の資産運用、経営者の評価等、企業活動のあらゆる局面で、自社株やストック・オプションを手段として活用してきたアメリカ型の経営スタイルは、株価と企業活動に非常に密接な関係性を持たせることになりました。株価を高水準に保つことを経営における至上の目的とした株価至上主義。株価上昇期にあった90年代以降のアメリカ経済の隆盛は、この株価と企業活動の正の相乗効果に依るところが大きかったと言えます。
しかし、新世紀となりIT景気が一段落して株価が調整局面を向かえた瞬間、株価と企業活動の好循環は逆に回転し始めました。業績悪化と株価下落の負の相乗効果は、過度に株価に依存した経営を行っていた企業にとって大きな打撃となりました。本来、不特定多数の投資家による投資活動の「結果」である株価を経営上の「手段」とした戦略上の限界と捉えるべきことなのか、その検証はこれから行われることになるでしょう。
と同時に、自社の株価下落が自らの個人財産の低減にもなる経営者。監査業務よりも収益性の高いコンサルタント業務に重きを置いた監査法人。顧客の利益ではなく自らの利益を優先したアナリスト。資本主義成立の根本にあるはずの倫理性を忘れ、「強欲の感染症」に感染した彼らの粉飾決算という掟破りの最後の一手は、アメリカの企業会計制度や市場自体への不信感を決定付け、負の相乗効果を加速、拡大させる結果となりました。
このようなアメリカ経済の現況は、かつて我々がバブル崩壊過程で経験した状況と酷似します。が、土地価格の右肩上がりの動きが止まって以来、10年以上に渡って経済的悪循環から脱しきれずにいる日本に対し、今アメリカでは本格的な悪循環に陥らないための国を挙げての諸策が講じられています。とはいえ、「変わってしまった」流れを「変える」ことは、そう容易なことではないようにも思います。
循環過程におけるある一要素の変化がきっかけで、全体の循環が一変してしまうこと。また、外部環境の変化によって、自らの強みであったものが弱みに転化してしまうこと。企業経営や国民経済に限らず、複雑系の性質を有する事物にとって、こうしたことは起こり得る話、というよりは、よくある話と言えるでしょう。だからこそ、時に我々は過去の「成功体験」をも捨て去らねばならないのかも知れません。
2.商法ビッグバン
今から約100年前の明治32年、現行商法は成立しました。以来、平成12年までに18回の改正が行われてきましたが、そのうちの5回が平成5年以降に集中しています(別紙1)。そして昨年、通算19回目となる改正が年三回に渡って行われ、さらに今年5月にも引き続いて改正が実施されました。まさに、商法ビッグバンと呼ぶにふさわしい改正ラッシュです。
昭和期における改正が、企業経営の適正化を目指したものであるとすれば、平成期の改正は企業活力の再生、すなわち企業競争力の強化に重点が置かれていると言われます。平成12年9月に法制審議会から公表された「今後の商法改正について」では、1. 企業統治の実効性の確保、2. 高度情報化社会への対応、3. 資金調達手段の改善、4. 企業活動の国際化への対応という4つの課題が今後の改正のテーマとして提示され(別紙1)、昨年及び今年の商法改正では、それに則した内容で改正が行われました(別紙2)。
今回の改正は、主に公開会社や資本市場を対象としたものでありますが、非公開会社や税法に影響を与える項目もいくつか含まれています。以下それらをピックアップし、その概要や利用方法を記載しました。
● 金庫株の解禁
* | 金庫株の解禁は、会社からオーナー等への資金移動の手段となり、相続税対策やオーナー自身の財産ポートフォリオの調整に利用できる。 |
* | 分散した株式を会社が買い取ることにより、経営の安定化を図ることができる。 |
● ストック・オプションの制限緩和
新株予約権の有利発行にあたるストック・オプションに関し、付与対象者、付与株式数、権利行使期間の制限が廃止された。また、総会決議事項から、付与対象者の氏名、株式数等が外され簡素化された。
* | 将来の事業承継予定者に対してストック・オプションを付与することにより、本人の意思が固まった時点で大株主になれるお膳立てを作ることができ、スムーズな事業継承を行うことが可能となる。 |
* | 取引先との資本提携の手段、企業買収に対する防衛手段、株式公開時の資本政策の手段としても利用できる。 |
● 株式の大きさに関する規制の撤廃
● 法定準備金の減少手続
資本金の4分の1以上の額が積み立てられている法定準備金(資本準備金、利益準備金)について、株主総会の普通決議及び債権者保護手続を経た上で、資本金の4分の1まで取り崩すことができる。これにより、配当可能利益を増やすことができる。
● 授権枠規制の撤廃
発行済株式数の4倍までとされていた授権株式数の規制が撤廃され、授権枠を拡大しておけば、大幅な増資を一気に行うことが可能となった。
● 監査役任期の伸長
平成14年5月1日以降最初に到来する決算期に関する定時総会で選任された監査役から任期が4年となる。(従来は3年)
● 取締役、監査役の責任軽減
株主総会の特別決議による取締役、監査役の責任免除が可能となった。また、責任免除の方法として、取締役会決議による責任免除規定を定款に定める方法等が新設された。これに伴い、登記簿上に役員の責任の免除欄等が新設された。
● インターネットの活用
株主総会の召集通知や議決権行使を、会社と株主双方の承諾をもとに電子メールで行うことができるようになった。また、会社は貸借対照表やその要旨を、公告に代えてインターネット上で情報開示することができるようになった。
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