望月会計事務所

事務所ニュース

News 2003.6月号

望月会計事務所
Tel: 045−621−5301

 先日、友人の誘いで、彼が勤める金融機関の社内研修会に参加させて頂く機会がありました。研修のテーマは「企業再生」。破綻懸念先企業の事業再建を積極的に支援し、その事業活動から生み出されるキャッシュ・フローによって資金回収を図る、というポジティブな不良債権処理のスキームとして、今、金融界において注目されている分野です。ケース・スタディとして、いくつかの実例を題材とした講義でしたので、部外者である私にとってもわかりやすく、そして非常に参考になる研修会でした。

 ところで、この社内研修会。この金融機関の公式の行事ではなく、部署や役職も異なる十数名の若手有志達が、自らのスキル・アップのために、会場代や教材費なども全て自己負担しながら、年に数回休日を利用して開催しているものなのです。業務外とはいえ、真剣さと適度な緊張感の漂うこの研修会の中にいると、厳しい経済環境の中で「自分達が、貸付先企業を、地域経済を、そしてこの金融機関を支えるんだ」という参加者の使命感のようなものが伝わってくる気がしました。研修会後の会食時に、その日講師を務めた部長は、「企業なんて最後は人ですからね。現場の第一線で働くここにいる若者達次第で、どうにでもなってしまうと思うんですよ。良くもなれば、悪くもね。」と話してくれました。

 経営資源の三要素と呼ばれるものの中で、唯一、会計上は資産として計上されない「ヒト」。特に不況下の今日では、そのコスト面ばかりに注目が集まります。しかし、その「ヒト」が有する“士気”や“智恵”、あるいは「ヒト」によって造られる“社内文化”や“社内の雰囲気”などが企業活動に与える影響は、時に「モノ」や「カネ」などよりも、はるかに大きい場合があります。

 この研修会では、再建対象の企業が内包する有用な経営資源を見出し、その有効活用を図ることで事業再建を果たした実例がいくつか紹介されました。その中には、その企業が過去に築き上げてきた“暖簾”や“ブランド”、あるいはその従業員が持つ“技術”や“ノウハウ”などの目には見えない経営資源を利用したケースもありました。

 社内に存在する簿外資産や目には見えない経営資源を見逃さず、その価値を客観的に把握しているか。またそれを社内でいかに構築し、事業活動においてどのように活用するかについて、ビジョンや戦略を持っているか。これらは事業再建の局面に限らず、事業を営む限り、常に経営者が自らに対し問い続けるべき大切な課題であるように思います。

1. 平成15年度税制改正について

 わが国の税制は、その時々の景気状況や財政状態、あるいは政治情勢等に影響を受けながら、これまで度重なる改正が行われてきましたが、その骨格は昭和25年に導入されたシャープ税制に未だ依存した格好となっています。

 昨年、税制調査会を中心に行われた「あるべき税制」についての議論では、持続的な経済社会の活性化のためには、少子・高齢化、グローバル化、情報化等の社会環境の変化に対応し、長期的な視野に立った税制の抜本的改革が必要だとして、「自由な経済活動を妨げない税制」「課税の適正化・簡素化」「安定的な歳入構造の構築」「地方分権と地方税の充実確保」という4つの視点と、税目ごとの今後の方向性が示されました。

 平成15年度の税制改正は、この「あるべき税制」の基本方針を踏まえつつ、現在のデフレ不況の克服を最重要課題とした上で、この3月に成立しました。その概略は次のようになります。

産業競争力強化のために 研究開発減税、設備投資減税、中小企業支援税
次世代への資産移転の円滑化のために 相続時精算課税制度、税率の引下げ
「貯蓄から投資へ」の改革のために 金融証券税制の軽減・簡素化
土地の有効利用促進のために 登録免許税の軽減
人的控除の簡素化等のために 配偶者特別控除の廃止
消費税の信頼性、透明性の向上のために 事業者免税点等の改革

 これらのうち、主要な改正と考えられる項目を、以下に解説致します。



【相続税・贈与税】

● 相続時精算課税制度の創設

 親から子へ無償で財産を譲り渡す場合、従来は「生前贈与」という方法しかありませんでしたが、今回の改正により、相続時精算課税制度と呼ばれる「生前相続」という方法が新たに認められることになりました。

 「生前贈与」では、年間110万円の基礎控除を超える部分に対し、超過累進税率の贈与税が「遺産相続」とは切り離されて課せられますが、「生前相続」では、複数年累計2,500万円の非課税枠を超える部分に対し、一律20%の贈与税の概算課税が行われ、それが「遺産相続」時に相続税と一体化されて課税の清算が行われます。その概略を別紙にまとめました。(→別紙1

 「生前相続」の利点としては、次のような点があります。

  1. 親が生きている間に、親の意思に基づいて財産分けができる
  2. 子にとって資金が必要な時期に合わせて、贈与を行うことができる。
  3. 将来、評価額が上がると見込まれる財産を、評価の低いうちに「相続」させることで節税を図ることができる。

 一方、以下の点には注意が必要です。

  1. 一度選択すると、その後「生前贈与」に戻すことはできない。
  2. 小規模宅地等の特例が、「生前相続」では認められない。
  3. 将来の相続時の相続税制のあり方(基礎控除額、相続税率等)次第で、「生前相続」分の税額が左右されるという不確定要素が伴う。
  4. 遺産相続時まで、「生前相続」関係の資料等を保存しなければならない。
  5. 将来、贈与した財産の評価額が下がってしまった時には、結果的に節税とは逆の効果となってしまう。

 相続に際しては、対象財産の価額や内容、被相続人の事業活動、さらには相続人の状況等を把握・分析し、スムースな財産分けや円滑な事業承継、そして税負担の軽減等の多角的な観点から、事前に分割案や分割方法を検討することが大切ですが、「生前相続」は、分割方法に関する有力な選択肢の一つとして、今後多くのケースで利用されることが予想されます。

 平成15年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与より適用されます。


● 住宅取得資金等に係る相続時精算課税制度の創設

 相続時精算課税制度が新設されたことに伴い、住宅投資を促進する狙いから、住宅取得資金等の贈与に係る優遇税制についても拡充が行われました。従来の方法との比較を別紙にまとめました。(→別紙2

 平成15年1月1日から平成17年12月31日までの間の住宅取得資金等贈与に適用されます。

● 相続税の2割加算制度の対象範囲の拡大

 養子縁組した孫などについても、相続税の2割加算が行われることになりました。

 平成15年4月1日以後の相続又は遺贈より適用されます。

● 税率構造の改正

 相続税及び贈与税の税率構造が見直され、それぞれ税率の軽減が図られました。

 平成15年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与より適用されます。


【中小企業税制】

● 試験研究費に係る税額控除制度の拡充

 試験研究費の総額に対し、当面15%(従来10%)の特別税額控除が認められました。ただし、当期の法人税額の20%(従来15%)が限度となり、控除限度額を超えた試験研究費については、翌年に繰越控除ができます。

 法人については、平成15年1月1日以後の開始事業年度より、個人については、平成15年分の所得税より適用されます。


● IT投資促進税制の創設

 一定の情報通信機器等の取得等を行った場合には、取得価額の10%の特別税額控除と取得価額の50%の特別償却との選択適用が認められました。また、資本金3億円以下の法人又は個人青色申告者には、情報通信機器等のリースについても、特別税額控除の適用が認められました。ただし、税額控除については、当期の法人税額の20%が限度となり、控除限度額を超えた試験研究費については、翌年に繰越控除ができます。

 法人については、平成15年4月1日以後の終了事業年度より、個人については、平成15年分の所得税より適用されます。

[対象投資]
ソフトウェア投資