中小企業金融円滑化法をめぐる動き

2012/11/28 水曜日

平成21年12月に導入された「中小企業者金融円滑化法」(以下、円滑化法)が二度の期限延長を経て、来年3月に期限切れを迎える。

平成24年3月現在、中小企業者からの貸付条件の変更等の申請は313万件に達し、うち289万件が実行され、実効率は92.3%となっている。審査中及び取下げ案件を除いた実質的な実効率は97.4%に上る。

なお、上記は一企業による複数の申請をすべてカウントした件数であり、これを企業数に換算すると中小企業の約1割が申請したことになるという分析もある。

同法の終了に関しては、中小企業等の資金繰りや経営に与える影響を懸念する声も多く、行政庁の対応が注目されるところであったが、金融庁は今年4月の政策パッケージに続き、11月に円滑化法期限到来後の方針に関する金融担当大臣談話を公表した。

円滑化法をめぐるこれまでの流れを概観してみる。

 

■「円滑化法」の制定

(経過)

(主な内容)

  • 金融機関は、中小企業や住宅ローンの借り手からの申込みに対し、できる限り貸付条件の変更等を行うよう努める
  • 金融機関の体制整備と実施状況等の開示・報告義務
  • 平成23年3月までの時限措置
  • 検査マニュアル及び監督指針の改定による不良債権に該当しない要件の拡充
  • 行政庁による中小企業融資・経営改善支援への取組み状況についての重点的な検査・監査の実施

(パンフレット)

 

■「円滑化法」の延長

(経過)

(主な内容)

  • 円滑化法期限の平成24年3月までの延長
  • 金融機関の開示・報告資料の大幅な簡素化
  • 金融機関によるコンサルティング機能の発揮の促進
  • 東日本大震災への対応

(パンフレット)

 

■「円滑化法」の最終延長

(経過)

(主な内容)

(パンフレット)

 

■「円滑化法」の期限到来後

(主な内容~本文より)

  • 「金融庁としては、円滑化法の期限到来後も、貸し渋り・貸し剥がしの発生や倒産の増加といった事態が生じないよう、引き続き、日常の検査・監督を通じて金融機関に対し、他業態も含め関係金融機関と十分連携を図りながら、貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努めるよう促してまいります。」
  • 「なお、金融検査マニュアル等で措置されている、中小企業向け融資に当たり貸付条件の変更等を行っても不良債権とならないための要件(注)は恒久措置であり、円滑化法の期限到来後も不良債権の定義は変わりません。 (注)「経営改善計画が1年以内に策定できる見込みがある場合」や「5年以内(最長10年以内)に経営再建が達成される経営改善計画がある場合」は、不良債権に該当しません。」
  • 「借り手が引き続き課題の解決に向けて努力していくことは重要ですが、全ての借り手に対して来年3月末までに何らかの最終的な解決を求めるというものではありません。」
  • 「以上を踏まえ、金融機関に対しては、こうした金融庁の検査・監督の方針を営業の第一線まで周知徹底し実践するとともに、今後も、更には円滑化法の期限到来後においても当金融機関の顧客への対応方針が変わらないことを個々の借り手に説明するよう促してまいります。」

 

円滑化法のミソは「しばらくの間、貸付条件の変更を行っても不良債権とみなさないので、借り手から要請があった場合には積極的に応じろ」ということであった。したがって、その終了は「貸付条件を変更すれば従来のように不良債権とみなすので、金融機関はそれを前提に借り手に対応せよ」を意味するものと思われた。

事実、今年4月の政策パッケージまでは、中小企業の事業再生や業種転換等の支援という円滑化法の終了を前提とした「出口戦略」が中心に謳われていた。

が、今年11月の金融担当大臣談話は、一転して「不良債権とならないための要件は恒久措置であり、円滑化法の期限到来後も不良債権の定義は変わ」らず、「円滑化法の期限到来後においても当金融機関の顧客への対応方針が変わらないことを個々の借り手に説明」せよという内容になっている。

政権交代が予想されている選挙戦直前の今、近頃コロコロと変わる金融担当大臣の「談話」というものがどのような効力、意味合いを持つのかはわからないが、金融機関からの借入を有する中小企業者にとっては、正直ありがたい話である半面、経営上の大きな不確定要素にもなるものと思われる。

(参考)

 

(望月)